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教員・学生の声 近藤 科江

医学博士 近藤 科江

 

Q まず最初に、ACLSに参加されるまでの経緯についてお伺いします。参加にあたって、どのような思いがおありでしたか?

さまざまな分野を連携できるコミュニケーション能力を持つ人材を、育成したいと考えました

近藤:2008年まで、京都大学大学院で医工連携というプロジェクトの推進に携わってきました。これは、工学の材料を臨床の現場に応用していく、というものです。その時に感じたのは、他分野のことを理解した上で「自分の作り上げたもの」「自分のほしいもの」を、きちんと伝えられる力の重要性です。どちらの分野も素晴らしい実績を持っているけれど、間を取り持つ人がいない。コミュニケーションが取れない。専門分野に詳しいことは大前提として、色々な分野を連携できる人材の育成が重要だと感じました。

 「博士課程教育リーディングプログラム」の話は、準備段階から聞いていました。生物学と情報学は、多くの部分でオーバーラップしています。けれども、両者をどのように結びつけてアウトプットしていくかについては、具体的な形はありませんでした。ACLSは、そこに答えを出していけるプロジェクトだと感じました。専門分野はしっかり学んだ上で他分野も理解して、どういうものをそこから生み出せれば社会貢献になるか。そこに貢献していきたいと考えました。

 また、私が重要だと考えているグローバルなコミュニケーションの部門を担当できる、ということも参加の動機になりました。留学や海外の方と交流する中で感じた「学生時代に受けたかった授業」を企画できる。自分の経験や経緯を活かせると感じたのです。

 

 

Q ACLSでは「ガンマ型人材の育成」を理念に、生命科学と情報科学を融合した教育プログラムが展開されています。その一つの柱として、近藤先生がプログラム委員長をされている「異文化コミュニケーションワーキンググループ」があるとお聞きしました。

近藤:「Γ型人材」と言ったときに、異文化コミュニケーションは「Γ」の横棒に当たるイメージです。専門分野と他の分野の橋渡しをする役割だと考えています。自分の研究について、積極的にアピールする能力を作っていく必要があると考えています。残念ながら、海外の方と比較すると日本人のアピールする力はまだ弱い。わかっていないことはわかっていない、と正直に言ってしまう誠実さがあるようです。けれども、自分が取り組んでいることに興味を持ってもらう、相手を惹き付けるには、海外の方と同様のアピール力を身につけなければならないはずです。自分から情報を発信する。相手に負けない表現力で相手に納得させる。その力が、社会に出てから大事になります。今のうちに力をつけられるような機会を設けています。

 自分の経験から言うと、異文化コミュニケーションの方法を独学で身につけるには限界があります。教科書を読んだり、講義を聴いたりするのと、実際に向こうの社会に入ってコミュニケーションを取ったりディベートをするのはレベルが違います。コミュニケーションは受け身や自分のペースではできない。実践的な体験を通じて、表現力だけでなく、話の組み立て方を学んでいくことが重要です。ACLSの異文化コミュニケーション科目群は、そこを学べるようにした教育プログラムです。

 

 

Q 具体的には、ACLSに参加している学生の皆さんはどのような方法で異文化コミュニケーションを実践する力を身につけて行かれるのですか?

「学生時代に受けたかった授業」を、学生に提供するつもりで取り組んでいます

近藤:コミュニケーション、ディベート、ライティング、プレゼンテーション、の4科目を通じて、異文化コミュニケーションの考え方や手法を実践的に学びます。どの科目も、学びたい人の意欲を促進し、消極的な人でも入っていけるように考慮して作っています。「自分が学生の頃、こんな授業があったら嬉しかったな」と思えるようなものにしました。

 講師は、語学学校のベルリッツから派遣して頂いています。非常に熱意のある方が集まっています。参加する学生が元々持っている力を、どう引き出すか。どんな風に働きかけたら、どう応えてくれるか。そういったことを常に考えて取り組んで下さっています。

 「コミュニケーション」では、文法的な正しさにこだわるのではなく、相手と会話の場を作っていく方法を学びます。どういう言葉を発したら、相手の意識を自分に向けることができるか。情報を引き出すためには、どんなタイミングで、どんな言葉を投げればいいか。こうしたことに実践的に取り組めるように構成しています。

 教科書にも工夫を凝らしました。通常の語学学校では、旅先や生活の中で使われる日常会話を中心に学びます。しかし、私たちが必要なものは違います。学会でディベートする時の話し方や、レセプションで情報交換する方法といったサイエンスベースの会話です。そこで、必要な場面を想定したコミュニケーションの方法を学べる教科書を用意しました。

 実際に授業をしてみると、最初の数回は参加した学生の多くがなかなか口を開けられません。けれども、早い人なら3回目くらいの授業で「あ、話せば通じるんだ」と思ってもらえるようで、徐々に活発になっていきます。アンケートなどを見ると、「回数を重ねるごとに、自分のコミュニケーション能力が上がっていることが実感できた」と回答する学生の方が多くいます。皆さん、語学に関するベースの能力は持っているんですね。ただ、その出し方がわからない。「コミュニケーション」では、各自が持っている力をうまく引き出すよう、工夫しています。

 

 

Q 他の3科目についても教えて下さい。それぞれの科目はどのような内容でしょうか。また、カリキュラムを構成する際に工夫を加えた点はありますか。

4つの科目を通して、グローバルに情報発信できる人材を育てています

近藤:「ディベート」は、最初のコミュニケーションが取れた上で、相手に自分の意見を言う、主張を伝える、議論をする、という力を身につける科目です。授業はあるテーマについて「賛成」と「反対」のグループを作って行います。そして、相手に自分の意見を納得してもらうためにはどのように伝えればいいか、グループ単位で議論を行いながら表現力を磨いていきます。しっかりとした力を身につけるには十分な予習が必要になる科目ですが、努力をした分の成果を上げられる科目になっています。

 会話を通じたコミュニケーションと同様に重視しているのが、文章で情報発信をすることです。後の世代に情報を伝えるには、文章で残すことが大切だからです。「ライティング」では、文章を通じて異文化コミュニケーションを行う方法を学びます。具体的には、Eメールや論文の書き方です。後者については、構成の方法から段階を踏んで学び、自分の意図が伝わるような論文を書き上げるところまでの力を養います。

 最後の「プレゼンテーション」は、自分の考えていることを多くの人にきちんと伝える能力を身につける科目です。発表時のジェスチャーの仕方や、話すときに注意することなどを学びます。多くの方の前で、自信を持って話ができるように導いています。

 これらいずれの科目も、「Γ型人材の育成」を行うACLSのプログラムとしては十分と言えるものになっていると評価しています。後はいかに学生の方に学んで頂くか、というところに重点を置いて展開していきたいと考えているところです。

 

 

Q 実践を通じて高めたコミュニケーション力を発表する機会が、今年行われた「Global Communication Contest 2013」である、とお聞きしています。成果はいかがでしたか?

Global Communication Contest 2013は、期待以上の成果を得られました

近藤:今年(2013年)の8月7日に、すずかけ台キャンパスで開催しました。異文化コミュニケーション科目を履修する学生に対するアンケートでは「自分のコミュニケーション能力が上がっている」という手応えを感じている方が多くいました。発表の場を設けることで、その自信を次のステップにつなげてほしいと考え、成果発表の場として開催したのです。

 初めての開催だったので、参加者や聴衆の方が集まってくれるかと心配しました。というのも、コンテストへの参加に単位上のメリットはないからです。ところが、募集をしてみると、10名の学生が応募してくれました。当日は一人10分の発表時間、しかも発表の間に休憩時間もない、というタイトなスケジュールになりました。聴衆の方も、70名以上。告知が遅く、しかも夏休みが始まった直後の開催という日程だったことを考えても、かなりの方が「参加すれば得るものがある」と考えて集まって下さったと思っています。

 当日の発表は、よい意味で当初の期待以上のものでした。10名の方全員が、優劣がないくらいしっかりとしたプレゼンテーションを行っていたからです。プレゼンテーションのコースに参加している学生の方が、学んだことに忠実に、いかにアピールするかを実践していました。スライドの完成度も高く、構成もよく練られたものでした。

 終了後の交流会も有意義だったことを含めて、成果は大きかったと評価しています。来年以降も続けて行い、積極的に参加して下さる方を増やしたいと考えているところです。

※掲載内容は2013年10月のインタビュー時点のものです。

 

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