文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業による支援期間の終了に伴い、平成29年度3月末に学内組織としては廃止された情報生命博士教育院のWEBページです。
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教員・学生の声 大上 雅史、鈴木 脩司

大上 雅史(計算工学専攻 D3)、鈴木 脩司(計算工学専攻 D2)

 

Q まず最初に、ACLSのプログラムに参加されようと思った動機についてお聞かせ下さい。このプログラムのどのような点に魅力を感じましたか?

自分の研究の幅を広げるために役立つプログラムだと考えて参加を決めました

大上:私の専門は、タンパク質同士の相互作用を計算機で予測する、というものです。対象は生命系のものですが、実験をせずにコンピュータで予測や解析を行っていました。けれども、研究を深めていくためには生命のことも、実験のことも知る必要がある、とずっと思っていました。
博士課程に進んだときにACLSの話を聞いて、「これは自分に役立つ」と考えました。生命科学系の演習の講義や実験の講義を受けられる、これは専攻している分野では絶対にできないぞ、と。そこでACLSへの参加を決めました。正規のプログラムが始まる前から関わっていたので、0期生のような形ですね。

鈴木:私も大上さんと似たような動機で参加を決めました。私の専門は、アミノ酸配列の相同性検索です。研究で生物の情報を扱う身としては「このデータ、どうやって出すんだろう」という疑問がいつもありました。話には聞いたことがあっても見たこともやったこともない。「自分が扱っているデータを、どのくらい信じられるのか」ということを知ること、そしてデータの出所を勉強することが重要だと考えていました。
ACLSのカリキュラムにデータの取り方の演習もあったので、研究の裏付けができると考えて参加することにしました。

 

Q お二人とも、ACLSのプログラムが始まった当初から参加されています。新たな教育課程に参加することへの不安、あるいは逆に期待はどのようなものでしたか。

うまくいくかという不安もあったけれど、自分に役立つという期待の方が大きかった

鈴木:私が博士課程に入るときに、ACLSのプログラムが始まりました。正規参加の1期生になります。まったく初めてなので、先生から色々な話を聞いても、カリキュラムを見ながら「これ、本当にできるのかな?」と思いながら参加した、というのが正直なところでした。自身にとって役立つとは思っても、実際にどうなるかは……。

大上:私は逆に、あまり不安は感じませんでした。自分の研究は生命科学系の話が分かっていないと進められない、きちんと学ぶべきだと感じていたからです。とはいえ、情報科学系の研究室にいるだけだと、学ばなくてはいけないけれど、どうすればいいかわからなかった。ACLSに参加すれば、その段階から少し進めるという期待の方が大きかったですね。逆に、ちょうどいい機会だったと思いました。

鈴木:実際にどうなっていくかは不安だったけれど、カリキュラムには魅力を感じていました。自分が知りたい生命科学系の知識を得られる、そうすることで研究の幅が広げられる、という期待は大きかったですね。

大上:いざ参加してみると、期待していたことが“当たって”いたことの方が多かったように感じます。思っていたように研究の幅を広げるよい機会になっています。
生命系の学会などで学んだ多くのことが力になって、このたび日本学術振興会から育志賞という博士課程学生にとってはたいへん大きな賞を頂くこともできました。多彩な方と関わり合うことが、自身の活動の糧になっているとも思います。

 

 

Q ACLSに実際に参加されてみて、どのように感じましたか?情報科学系のお二人から見て、生命科学系の方の考え方や研究の進め方に戸惑うことはありませんでしたか。

考え方の違いに戸惑うこともありましたが、逆に新鮮で刺激を受けることも多くあります

鈴木:生命科学系の方との考え方、感じ方の違いはある、と思いました。特に、データの許容範囲が違う、と感じましたね。同じ手法で得たデータが大きく異なることがあって、その違いをどこまで許容して良いかで最初は戸惑いました。
また、評価の仕方にも違いはあるように思いました。学会発表などを聞いていても、生命系の人は定性的な評価が多いなと思いました。情報系だと、定量的な評価をする場合が多いと思うので、だいぶ違うなと感じましたね。

大上:私自身はあまり大きな違いは感じませんでしたね。生命科学系の人が目的にしているのは、生命現象を解明することです。そのためには手段を選ばず、活用できるものは何でも使う。そこが、研究の進め方や対象の捉え方の違いになっているように思いました。けれども、生命情報科学を志してACLSに参加している人はみな、「生命現象を解明する」という目的は共通しているはずで、同様に使えるものは何でも使うべきだと考えています。

鈴木:そういった点にはびっくりしたし、逆に新鮮にも感じました。生命系の人と一緒に学ぶことで、自分の考え方/感じ方にも変化が出てきていると思っています。

 

 

Q 専門分野の研究もしながら他分野についても学ぶことは、負担になったりしませんか。

負担がない、とは言わない。けれども、その負担は大きくはありませんでした

鈴木:ACLSに参加すると、必要な単位を取らなくてはいけないので「負担が増えるんじゃないか」とも思いました。ふだん研究をしている大岡山から、ACLSの主たる拠点があるすずかけ台までの移動時間なども気になりましたし。
ただ、実際に参加して講義を受けてみると、課題は確かに多いけれど学部生の頃に比べればずっとラクでしたね。ACLSは3年間で20単位取ればよくて、私自身も博士2年までの期間にほぼすべて履修できましたから。

大上:すずかけ台のキャンパスで行われる講義は、大部分が遠隔で受講できる環境が整備されているので、時間のやりくりはそんなに苦ではないと思いました。演習の時期は、まとまって2週間くらい毎日通う必要がありましたが。

鈴木:また、学生側からACLSにフィードバックをすることで、環境が改善されていったこともあります。私が参加した初年度は遠隔講義があまりなかったのですが、要望したら翌年から増えてラクになりましたし。

大上:講義を受けながら、学生がフィードバックして一緒にカリキュラムを整備している感じがありました。教員と一緒に作っていく、固めていく。そんな柔軟な部分もあるので、ACLSに参加することを大きな負担としては感じませんでした。

 

 

Q ACLSのプログラムの中で、特に印象に残っているものはありますか。

3つのプログラムが、特に強く印象に残っています。いずれもACLSの目玉、です

大上:「グループ型問題解決演習」です。情報科学系と生命科学系の学生が一緒になって1つのテーマに取り組む、ACLSの目玉と言える演習講義ですが、実際にやってみてかなり面白く感じました。
私は2つのテーマに参加したのですが、生命科学系の方が日常的に行っているであろう実験を体験して、とても新鮮でした。

鈴木:自分の研究に使うDNA配列データを出す演習を受けましたが、実験を行ってくれる研究者に尊敬の念を抱きました。
自分でやったものは失敗して、とてもまともに解析できるデータではなかったですから。

大上:もう1つの目玉、といえるのが「夏の学校」でしょうね。いろいろな大学や学会で類似のイベントが行われていますが、ACLSの凄いところは海外で開催する(2013年はロンドンで実施)と言うこと。実際に海外へ行って、海外の研究者や学生と議論や交流を行う、というところは他に例を見ません。活動の舞台が広がる素晴らしいイベントだと感じました。

鈴木:あとは語学の講義ですね。中でも特に、グローバルライティングの講義が役立ちました。

大上:私はグローバルコミュニケーションの講義が役立ちました。講師1人に対して学生5人くらいで、日常会話の他に「プレゼンテーションでの質問の仕方」「学会発表のためのスピーキング技術」など、サイエンスをうまくやっていく上で必要なことを学べました。

 

 

Q ACLSで学んだことを、将来はどのように活かしていこうとお考えですか。

さまざまな境界領域に触れ、社会に貢献できるような研究をしたいと考えています

鈴木:企業での研究に興味があったので、産業界に進もうと考えています。もともと、計算工学の世界からバイオインフォマティクス(=生命情報科学)に進むというのはかなり異色だと考えていました。私は、「現実の世界にある課題を解決するには、何が必要か」と考えることで情報科学の研究は進むと思っていて、バイオインフォマティクスの世界ではそう考える必然性が高い。そういう場に身を置くことによって「社会に貢献している」と思えて研究のモチベーションも上がります。そう考えてバイオインフォマティクスの世界に進み、ACLSに参加もしました。
他分野を知り、他分野の人と協働するというACLSでの経験を経て、いまはバイオインフォマティクスだけでなく、別の境界領域のところもいろいろやってみたいと考えています。企業に行くことによって、さまざまな境界領域の分野に触れられるのではないか、と考えているところです。

大上:生命情報科学という分野は広く知れ渡るようになり、様々な企業が参入を始めています。ですが、ここ数年の技術革新による生命情報科学の可能性の拡がりはとても大きく、まだまだ産業化の“種”が必要な分野だと感じています。私は、学位取得後しばらくはアカデミアの世界に残り、この“種”の発掘を続けていきたいと思っています。
異分野を知り、異分野を異分野と思わずに、融合/学際領域を目指した方が新しい発見を得られる……そんなイメージがもともとありました。ACLSに参加したことで、そのイメージはさらに強くなりました。

※掲載内容は2014年2月のインタビュー時点のものです。

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