文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業による支援期間の終了に伴い、平成29年度3月末に学内組織としては廃止された情報生命博士教育院のWEBページです。
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教員・学生の声 関根 光雄

理学博士  関根 光雄

 

Q 関根先生は大学院生命理工学研究科長として、情報生命博士研究院(ACLS)の創設から関わっていらっしゃいます。まず最初に、ACLSの創設に至る経緯をお聞かせ下さい。

学生の視野を広げる、新たな教育課程を生み出すことが必要だと考えました

関根:私には、いまの学生は視野が狭いように思えます。自分の専門分野に集中しすぎて、他を見ない。ですから大学院などで、他の分野にも触れておくことが必要です。そして、他の分野にも研究の触手を伸ばしていけるような教育課程が必要だと考えていました。

 将来、企業やアカデミックの分野で活動するとき、何らかの形で他分野の教育を受けている人であれば、そして、その知識があれば、さまざまなことに対応できます。自分の専門分野と他分野、双方の発想の違いも理解できるようになります。その橋渡しができるような人材を育成する教育課程を作り上げたい、と考えていたわけです。

 2011(平成23)年度に、文部科学省が大学院に対する新たな教育支援プログラム(博士課程教育リーディングプログラム)を始めました。「グローバルCOEプログラム(注1)」の後継に当たるもので、大学院における教育支援を主な目的にしたものです。この制度を活用し、生命分野と情報分野を融合した新しい教育課程プログラムを作り上げることで、先ほどの課題を解決できると考えました。学内での議論を経て応募し、採択され、その結果としてスタートしたのがACLS、ということになります。

注1:グローバルCOEプログラム
文部科学省が2007(平成19)年度からスタートした支援制度。国際的に活躍できる若手研究者を育成するための機能強化と、国際的にも卓越した教育研究拠点の形成を狙いとしている。東京工業大学 大学院では初年度に5件採択されるなど、積極的な関わりを持ってきた。プログラムの詳細は、日本学術振興会(JSPS)を参照。

 

Q 一口に「複数分野の融合」と言っても、新しい教育課程を作り上げ運営するのは大変なことと思います。プログラム責任者として、どのような工夫や努力をされてきましたか。

充実した教育をするために、多くのエネルギーを費やしています

関根:生命科学と情報科学はまったくの異分野で、考え方や使う言葉も違います。ですから、最初は意見がまるで噛み合わず、まさに“水と油”のようでした(笑)。互いの間にバリアがある状態です。私はその橋渡し役、“界面活性剤”のような役割をしてきました。相手の話をよく聴き、相互に理解しあうプロセスを辛抱強く進めていきました。

 設立してからも、やり方や役割は同じです。現在でも、運営委員会や幹事会などのミーティングは年間40回近くに及んでいます。さまざまな課題について、きめ細かく話し合うことで対応しているわけです。普通、大学の先生がこれほどの回数の会議に参加することは考えられません。会合に時間を割くことで、研究の手が止まってしまうからです。けれども、ACLSでは一つの目標に向かって力を合わせて進んでいく、という覚悟を決めた先生が集まっていますから、皆さん真面目に取り組んで下さっています。とりまとめ役の先生や、インターフェース役の先生など、それぞれが分担された役割をしっかり果たすことで、次から次に出てくる課題に対応・解決できています。

 ACLSの運営には、かなりのエネルギーを費やしています。先生方のエネルギーを結集できているからこそ、「Γ型人材の育成」という新しい理念の教育プログラムを作り上げ、無理なく運用していくことができている、と思っています。

 

 

Q 専門分野以外の領域を学ぶことで、学生にはどんなメリットがあるのでしょうか。

苦労する点は多いかもしれませんが、それらはすべて将来の“糧”になります。

関根:ACLSは、単に複数の分野を学ぶこともできます、という表面だけのジョイントプログラムにはなっていません。授業数や単位は多く、実習も実務的な内容になっていますから、学生の負担は大きいでしょう。他分野の授業を受けたり、各種のイベントに参加することで、自分の研究時間が確保できず、研究が進まないこともあるかもしれません。別のことを学ぶ、というのは、何かを犠牲にすることにつながります。けれども、犠牲になった分は、将来の“糧”になる。各自が、自分の将来に向かって先行投資しているわけです。

 ACLSでは、さまざまな分野でネットワークを築くことに力を入れています。グループワークが代表的なものです。友達のネットワーク、他分野との学生のつながりを広げていく。この他に「夏の学校」で海外の学生と交流する機会も設けています。どれも、事前準備はありますし、参加する時間も必要です。負担になる。けれども、こういう機会に作り上げたネットワークが、後に企業に行ってもアカデミックに残っても、価値を持ちます。

 いまは大変でも、将来役に立つ。10年後に学生が「ホームカミングデイ」で戻ってきたときに「あのときは大変だったけど、社会に出てから役に立った」と言えればいい、と考えているわけです。すぐに教育効果を求めるプロジェクトはダメで、ACLSでは10年先、20年先に効果が出ることを見越して教育プログラムを組み立て、運営しているのです。

 

 

Q 関根先生が推進されている『産業界若手メンター制度』について、狙いや制度の運用方法などをお聞かせ下さい。

関根:教育界と産業界の連携は大切だ、ということは、以前から感じています。私が学生の頃は、企業から派遣されて研究を行う「研究生」が、大学院には多数いたものです。学生と一緒に食事をしたり、いろいろな話をすることで、相互理解が深まっていました。学生にとっては「この会社に行けば活躍できる」「この会社では面白いことやっている」など企業の実態がわかりましたし、企業側も大学がどんな研究を進めていて、将来有望な博士課程の学生やスタッフと密に連携が取れる。互いにいい関係を築くことが、就職活動や共同研究などの場で役立っていました。

 今は残念ながら、同様のコミュニケーションが少ない状態です。研究生として派遣される方は少なくなり、企業からも大学からも、相手が見えにくくなっています。そこで、相互のインフォメーションを自然に取り入れられるような仕組みを整えよう、ということを考えて作ったのが「産業界若手メンター制度」です。

 この制度では、企業から中堅(30~40代)の優秀な人材を派遣して頂きます。事前に研究内容などを精査し、高い実力を持つ方を厳選します。さらにヒヤリングも行い、十分なコミュニケーション能力を持っている方を選びます。そして特任教員という称号付与を行い、一定の期間を研究室で過ごしてもらうようにしています。ACLSでは最大で12人までの方を受け入れられるようになっており、現在は4名の方に在籍して頂いています。

 

 

Q 産業界若手メンター制度の、これまでの実績についてお聞かせ下さい。どのような成果があがっているのでしょうか。

来た瞬間から研究室の雰囲気が変わる、実効性の高い制度

関根:私の研究室の場合で言えば、まず研究室の雰囲気が目に見えて変わりました。学生にとっては気軽に聞ける、頼れる先輩が現れる。企業の方にとっては、後輩の見ている前で研究をしっかり進めようというモチベーションが持てる。その結果、互いに刺激を受けて、会話や研究の進め方がガラッと変わりますね。

 産業界若手メンター制度を作る前に、ある企業の方が、久しぶりに研究生として3ヶ月ほど私の研究室に在籍したのですが、学生と一緒にテニスをしたり、研究室の旅行に行ったり、といった機会を利用して、短期間でも学生のいろいろな相談にのっていただけました。その方は、スタッフとも深い信頼関係を築けたようで、「今後30年の付き合いができる人と巡り会えた。来てよかった」とも言っていました。それ以後、お互いに何でも聞けるようなよい交流関係が築かれています。実は、この経験を機に今回の制度を発案しました。

 また、産業界若手メンター制度を作ったあと、メンターとして在籍していた方が企業に戻られた後で、「共同研究の契約を結びたい」「開発プロジェクトに共同で取り組みたい」と提案してきました。実際に研究室にきて、見て聞いて体験すると大学のよいところがわかるいい例かと思います。

 このように、目に見える成果も、副次的な効果もあるのが、産業界若手メンター制度です。まだまだ積極的な活用という段階には達していませんが、そこに至るさまざまなバリアを乗り越えるだけの価値がある制度です。今後もどんどんアピールして、産業界と教育界の間にネットワークを広げたいと考えています。

※掲載内容は2013年10月のインタビュー時点のものです。

 

関連Link

  
                       東京工業大学 生命理工学研究科          東京工業大学 情報理工学研究科          東京工業大学                

   
                       JSPS 博士課程教育 リーディングプログラム          東京工業大学 リーディング大学支援室