Alfredo:私の指導教員である岩﨑先生が「日本にはこういうリーディングプログラムがある」と勧めてくれたのが、ACLSを知るきっかけでした。Webサイトを見せてもらい、「生命科学と情報科学の分野を一緒に学べるというのは良いアイディアだな」と考えたのが、参加の動機です。
私は生命科学の分野で研究を行っています。主なテーマはDNAの修復についてです。DNAとタンパク質とがどのように関係しているか、そのやりとりを調べています。研究を進める上で、コンピュータを用いた計算が必要なことが多いので、情報科学の知識も必要です。コンピュータの進歩によって、自分の専門分野で発見できることも増えています。ACLSで情報工学の知識やプロセスを学ぶことは、自分にとって良い考えだと思いました。
Batchunag:私は、高校卒業後にモンゴルから日本にやってきて、東京工業大学に入学しました。専門は情報科学で、主にアルゴリズムについて研究しています。学部3年生の時に、ACLSについて知りました。
実は、高校生の時から生命科学に対する興味がありました。たとえばDNAについてです。高校卒業後も、生命科学について学んでみたいという思いがありました。けれども、大学に入学してからは自分の専門分野の勉強を主にしていたので、生命科学を学ぶ余裕はありませんでした。
ALCSに参加すれば、自分の研究と同時に、以前から興味があった生命科学分野のことも学べる。そう考えて、学部を卒業して修士課程に入学した昨年の4月からACLSへ参加することにしました。
Alfredo:日本へ来る前に、日本語や日本文化について学んでいましたので、来日して大きなショックを受けることはありませんでした。ACLSのプログラムは英語、あるいは日本語のいずれかで行われると事前に知っていたので、ACLSへの参加を決めたときも大きな不安は感じませんでした。
実際に参加してみると、日本語だけで展開される授業もあったので、そういったものは確かに難しいなと初めは思いました。ただ、その難しさは自分で乗り越えなければいけないんだな、と考えました。テーマを理解して、説明を探して、必要なものがあれば読んで、という努力です。ACLSにはTA(=Teaching Assistant)もいますので、そういった助けも借りることで問題なく過ごせています。
Batchunag:ACLSに参加する前から日本に来ていたので、あらためて不安を感じることはありませんでした(笑)。東工大に入学するために日本に来たときは、日本語はわかりませんでした。それでも、日本に来ることになったときに不安は感じていませんでしたね。日本での生活を楽しめばいいや、と思っていたからです。
ただ、大学に入学して大きな問題になったのが「漢字」です。モンゴルには漢字はないので、私の中では「漢字は新しいもの」という感覚でした。専門も計算科学なので、実際に手を使って漢字を書くというチャンスはあまりありませんでした。そうすると漢字を書こうと思ったときに忘れてしまうということがよくありました。授業を履修するときやテストを受けるときに、漢字を使わないといけなくなって「困ったな」ということはありました。
ACLSでは、海外出身の教員や留学生がたくさんいますので、学部の頃に比べると、言葉のハードルは低いと思っています。
Batchunag:ACLSには英語で学ぶための環境が整っています。コースを修了するために必須となる課目については主に英語で授業が行われますし、主な使用言語が日本語でも、英語を話すことができる先生が教鞭をとっています。
「グループ型問題解決演習第一」は日本語で展開されましたが、留学生をフォローする役割のTAが必ずついていました。さらに、グループで演習を行うため、「ここがわからない、わからなかった」という部分については学生同士で授業の後にお互い助け合いました。私のグループは日本人が二人、留学生が二人のグループでしたが、みんな英語で話していましたので、授業についていくことができました。
Alfredo:「グループ型問題解決演習第一」には留学生も多く参加していました。毎週、演習の1時間前に「今回は、こういうレクチャーが行われますよ」というブリーフィングを、留学生を集めて行ってくれました。こういう配慮があったので、私たちも理解しやすく、バックグラウンドもわかって助かりました。
授業や演習以外の連絡も、事務室からのメールは日本語と英語が併記されています。皆さん英語がわかるので、お互いにやりとりをする中で「ここのところがわからない」と言うと詳しく説明もしてくれました。「わからないことがあったら、何なりと質問して下さいね」と言ってくださるので、ACLSでは順調に過ごせています。
Alfredo:ACLSに参加したことの良さは、多様な人たちとやりとりができたことです。単に専門分野が異なるというだけではなくて、異なる国から来ている人とやりとりをすることは、自分にとって大変良いチャンスだったと思っています。
一つのテーマに対する取り組み方についても、お互いにどうやっているのかを知るのが大切だと思うんですね。たとえば、出された課題に対して一緒になって取り組んでいく時に、国や分野によってやり方や方向性が異なってくるんだということがわかりました。その違いを知る、感じるという経験ができたのは、有意義だったと思います。
Batchunag:先ほども言ったように、私は常に生命科学に関心を持っていました。それはACLSに入っても入らなくても変わらなかったと思います。けれども、ACLSの「Γ型(注1)の人間になる」という考えに大きな影響を受けました。ただ単に知識を得るということだけではなく、情報科学と生命科学の両方に対しての考え方を知ること、背景の異なる人とチームワーキングを行うことで、Γ型への道を進めていると考えています。
Alfredo:専門分野が異なる人が一緒に学ぶのは難しい、という人もいますが、私は逆だと考えています。お互いに難しいと思ったことを教え合うことで、他の専門分野の人にどう説明したら理解してもらえるかを実際に体験できるのも、ACLSの良さだと思っています。
Batchunag:経験が豊富な先生から教えてもらうことは、もちろんたくさんあります。しかし、異なる分野の学生が互いに学び合うことによって得られることがあります。自分が得意とする分野を相手に説明し、他専門の分野については教えてもらう、それによって新しい解決法が見つかるのです。それができるチャンスがあるのは、ACLSのメリットだと私は考えています。
注1:Γ(ガンマ)型-Γ型人材 ACLSが養成する新しい博士人材像。主専門の深い知識と関連する副専門を有する人材。
Batchunag:私は、ACLSのプログラムの中で、他の分野の人たち、他の人たちと一緒に何かをする経験をしたことを活かして、Γ型/Π型(注2)の研究者になりたいと考えています。ただ、一人で孤独に何かを学んでいこう/研究していこうというのではなく、ほかの研究者、あるいは会社の同僚と協力して、一緒になって同じ方向に進んでいきたいですね。
Alfredo:正直なところ、ACLSに来たことで将来にどうすればいいかわからなくなってしまいました(笑)。参加する前は「修士号、博士号を取り、研究者になって製薬会社に就職する」というクリアなビジョンがありました。けれども、ACLSに参加していろいろな人に会い、海外でのインターンシップなどに参加していく中で、「他の道もあるじゃないか」ということに気づかされました。今は多くの選択肢から、どれに進むか迷っています。
Batchunag:これからの人生のキャリアで何をしなければいけないか考えている人、卒業後に何をするか決まっていない人がいれば、「おいでよ」と声をかけてあげたいですね。「ACLSに参加してみたら?そうすれば、自分の選びたい道がはっきりするよ」と。すでに自分のキャリアを決めた人に対しても、「もしかしたら他の道が見つかるかもしれないよ」と言えると考えています。
Alfredo:修了要件だけを見ると、「うーん、ちょっと難しいかな」と思ってしまう方もいるかもしれません。けれども実際にACLSに来てみると修了要件を乗り越えるメリットも大きいと思っています。全力で、最善を尽くせば、きっと後のことはついてきます。ACLSは難しいと思っても、頑張れば成果が出る場所です。
注2:Π(パイ)型-Π型人材 2つの深い専門分野を有する人材。
※掲載内容は2015年1月のインタビュー時点のものです。